日本一の山に最速で挑む男の話
当日、ぼくはリュックに入れ忘れたものがないかそわそわしていた。
仙台に日本一の山があると聞いてから、ずっとこの日を待ちわびていた。
ただ登るだけではない。世界最速登頂記録を打ち立てる。それが今回の目的だ。
この日のために新品の登山用具を揃えたり、大年寺の階段で足腰のトレーニングを積み重ね、
万全の準備をおこなってきた。
当日の天気も良好。これ以上ないコンディションだ。
いざ山を目の前にすると、その存在感の大きさに心がざわめく。
「これが日本一の山か…。」と恐怖と好奇心が渦巻いた感情と向き合いながら、スタートの時を向かえる。
「よーい、スタート!」その合図と共に、ぼくは走り出した。
今考えると登り終えるまでの記憶はほとんどない。
それくらい無心で山を駆け上がった。
気づけばぼくは山頂にいた。
そして恐る恐るタイムを見る。
やった!ついに世界最速記録を打ち立てた!
喜びのあまりぼくは、トレッキングポールを天へ突き上げ雄叫びをあげていた。
記録1.44秒。
日本一低い標高3mの日和山から眺める景色は、タイムを計った友人のつむじすらも見下ろせなかった。