幻の滑り台
祖父の家で母親の幼少期が収められたアルバムを眺めていると、ある公園の滑り台が写っている写真に目が止まった。
そこには半世紀前の園児たちが滑り台で遊ぶ様子が写っていた。
なんといっても心を奪われたのはこのデンジャラスな滑り台。
まるでスキージャンプ台を思わせるような長さと傾斜。
スタート地点に立つときには下から「ふなきぃ〜」と号泣する原田の震えた声援が伝わってきそうだ。
この写真の滑り台はどこかと母に尋ねると、向山中央公園だということがわかった。
実際に行ってみると、まだこの滑り台が残っていた。
少なくとも半世紀以上このデンジャラスな滑り台が残っていることに私は感動した。
しかし、写真と実物とで違う箇所があることに気づいた。
長いほうに目を奪われてばかりいたが、実はその隣に半分ほどの長さの滑り台がかつてはあったのだ。
そして、その短いほうこそ実にクレイジーな滑り台だったことに気づかされ驚いた。
つまりこの短いほうは着地点もなく、コンクリートの崖の途中で放たれ「あとはどうぞ転げ落ちてください」と言わんばかりの理不尽極まりない滑り台だったのだ。
撤去されたとき誰も惜しむ人はいなかったはずだ。
だが、長いほうはどうかこのまま残って今の子どもたちに長く遊んで欲しい。
こういう遊具こそ子どもの好奇心をくすぐり、子どもは危険を通して安全を学ぶものだ。