1TO2BLDG「この場所は自分たちのためにつくった場所ではない」〈前編〉

点を線でむすぶ人 vol.1

「この場所は自分たちのためにつくった場所ではない」
荒川瞳さん/1TO2BLDGオーナー

1TO2BLDGと書いて、イチトニビルと読む。
8月にオープンしたばかりのこのビルは、仙台駅からまっすぐに続く青葉通りを西へ進み、仙台地下鉄東西線西公園駅から徒歩数分、青葉通りに面したところにある。
元ダルマ薬局の4階建ての空きビルを、1棟まるごとリノベーションをした複合施設だ。
1Fはカフェ、2Fはショップとイートインスペース、3Fと4Fはイベントスペースになっている。

しかしこのビル、ただのカフェやショップではない。

1Fの「BAKE&COFFEE MUGI」は、東北産の小麦にこだわった焼き菓子を毎日味わえるカフェだが、カウンター内にポップアップショップを設けていて他業者が出店することができる。とても新鮮で画期的な取り組みだ。

2Fの「物語のあるモノ MYAKUMYAKU(ミャクミャク)」では、大きく3つのテーマを持っている。一つ目は県内外の伝統工芸品や作家さんの手仕事による作品のセレクトと販売、二つ目は、廃校や廃業・空家・古着など、目的を終えたモノ達を必要とされている方々へ繋ぐ仕入れと販売、そして三つ目が、伝統技術や食品などを新しい形で商品開発から、ブランディング・販売までを行う商品のデザイン事業で、畳の棚やお茶などを実際に店舗で手にとることができる。

3F、4Fの「アートスペース YOUTO(ヨウト)」は、アートの展示や音楽ライブ・アパレルブランドの展示販売会・セミナーなど、様々な用途で使用できる。 また、毎月1日と2日(変更有)には、マルシェ形式で様々な出店者が集うイベント「イチとニ市」を行っている。


1Fカフェ「BAKE&COFFEE MUGI」

お客さん、出店者、作家さん、たくさんの人々が集い、繋がることができるようにと、あたたかい想いの込められたビルだ。
そんな1TO2BLDGを運営する、荒川瞳さんにお話を伺った。


 

1TO2BLDGの原点は、デザイン制作で直面した伝統工芸の現実

―1TO2BLDGは、1Fがカフェ、2Fがショップ、3F、4Fはギャラリーとなっていますね。2Fのショップは棚板が畳になっていて、ただの流行りものではなくて、県内外の伝統工芸品を扱ったり、作家さんの手仕事が見えるような商品がセレクトされているのを感じます。なぜそのような商品を扱おうと思ったのですか?

このビルは、「BRIGHT inc.」というデザイン制作会社で運営しています。
制作の仕事で、仙台市からの委託事業として、仙台の工芸品・食品をもっと県外の方々に 知ってほしいという案件のブランディングを担当させて頂きました。中川政七商店の取り組みなど、メディアや雑誌などでは知っていましたが、少し遠いことのように感じていて、問題点よりも成功事例ばかり記憶に残っていました。
この案件を通じて自分たちの身近なところでも、工芸品を制作する職人の後継者が減っていることや、商品があまり売れないことなど、伝統工芸が直面している現実を改めて知りました。
その時にデザインしたサイトが「MONO SENDAI」です。予算や制限のある中ではありますが、このサイト内では紹介だけで終わってしまうのが、とてももったいないと思ったんですね。
だからそうした商品を置ける場、買える場を造りたいと考えていました。また、私自身エプロンをつくっている関係で、作り手らしさや作り手の想いということに共感していました。

―そう思ったのはビルをつくる前から?

前からですね。もともとカフェを開くのが夢で、そこでエプロンも売り、一緒に伝統工芸品置けたらとはじめは考えていました。


2Fショップ「物語のあるモノ MYAKUMYAKU(ミャクミャク)」

計画が白紙になるピンチを乗り越えて、やっと出会ったビル

―もともとカフェを開くことが夢だったんですね。こうした複合施設をつくろうとしたきっかけは?

実は、この場所でお店をやろうとは思ったわけではなく、仙台フォーラム近くの商店街内のテナントをリノベーションしようと計画を立てていました。
その店舗のオーナーさんは、商店街に店を出す人々が高齢化し、商店街自体も寂れてシャッター街化していく中で、もう店を畳もうと考えていたようです。すでに不動産会社や内装屋さんに相談され、ここで何かをやってくれる、新たな事業者がいないかと探してらっしゃいました。
私たちは、もし新たな事業者が見つかったら、内装のデザインのお仕事を一緒にさせてほしいと話していましたが、それであれば私たちに事業をやらせてもらえませんか? と交渉を始めました。
カフェと物販、作り手さんが作業できるシェア工房のようなものができたらなぁと、ぶわっとアイデアが広がりました。
それがこのビルの基軸です。と言ったものの実際に計画を立て始めると、フロアが想像以上に広く、自分たちだけで何かするというよりは、いろんな方と連携していけるスペースがあった方がいいと感じました。
若手の方がここを借りて事業を行い、それを見た若者が自分もここでやりたい、というようにどんどん広がるイメージで、那須の「SHOZO CAFE」のように通りの拠点となり、場所にしていけたらと思っていました。この頃は「SHOZO CAFE」や、山形の「とんがりビル」その他、商店街を活性化した実例などを聞けば見に行き、勉強していましたね。


1TO2BLDGオーナーの荒川瞳さん

―場所が今のところになったのは?

プランや設計、融資も決まり、あとは店舗の引き渡しを待つだけという状態になったころ、急遽オーナーさんの奥さんがご自分たちで事業を始めたいと、この計画自体が急遽白紙になってしまったんです。それならば別の場所でやりたいと思い、即場所探しを始めました。大きい事業だったので、狭いところでは収まらなくなってしまい、なかなか物件が見つからずに苦労しましたね。そしてちょうど今のビルを知り、ここに決めました。

―このビルは空きビルだったんですか?

そうですね。ダルマ薬局が出てから、2年くらい経っていたそうです。私たちが入る前は、一度別の施設として、学生たちが自由にリノベーションして使えるスペースとして登録されていたようでしたが、実際にはほとんど稼働していなかったとのことで、ビルオーナーがちゃんと店舗としてもっと有効活用してくれる事業者を探していました。
このビルにはエレベーターがなく、店舗の奥に階段があるので、1階だけというような借方ができない。だから1棟貸しなんです。これもなかなか借り手が見つからなかった理由のひとつではないかと思います。

―ビル1棟丸ごとのリノベーションということで、きっと大変な苦労をなさったかと思いますが、どのような点に苦労しましたか?

もう、それは内装費ですね。4階建てなので、全部×4(笑)。そこに+共有部や外構。 事業内容により消防設備や、上下水道の整備、配電やネットワークのなど電気工事、使用されていなかった空調関係の交換新設など、内装のデザイン部分ではない「下地」部分にかなりの費用がかかりました。トイレも増設しました。あとは壁塗りも×4、途中で恐ろしくなりましたが、できない理由を探すのではなく、ここをこうしたら出来るんじゃないかと、何度も壁に当たりながらも何とかここまで来れました。むしろ今も壁に当たっています(笑)。


2Fのイートインスペース

1回来ると3人知り合いが増える、2回来ると10人に増える

―近年、古い建物をリノベーションして再活用する動きが全国的に活発ですが、建物をただ綺麗に、そしてお洒落に見かけだけリノベーションするだけでは意味がないという意見もあります。このビルのリノベーションをした中で、何か工夫した点や心がけた点はありますか?

もちろん予算の関係もありますが、まるっきり新しくしてしまうと、価値が半減してしまうのではないかと考えています。 全ての事例ではなく、もちろん新しいものにも素晴らしいものがあると感じています。
どの空きビルにも空き家にも、それぞれの生まれてから現在に至るまで、利用者・周辺に住んでいる方々も含めて、物語があると考えています。自分たちのやりたいことを優先するのではなく、この場所だから、こんな店舗があったら楽しいだろうと元々の物語を汲み取りながら、新しいエピソードを足していくように考えました。
例えば、階段はそのまま残しましたし、外観にもほとんど手を加えていません。新しく注目されるのもうれしいですが、きっとこの近所に住む人の中には、このビルに思い入れがある人もいるかもしれません。そうした方たちに配慮をし、あまり変えすぎないようにしました。あえてのアナログ感であったり、昔っぽさを残すことも、こだわった点ではありますね。

―1to2bldgでは、毎月1日と2日に「イチとニ市」という、マルシェのような出店イベントを行っていますよね。お客さんはもちろん、様々な出店者の方が集えるように工夫がなされていて、人と人とのつながりであったり、コミュニティを大事にしていらっしゃるのが伝わります。そうした点も、見かけだけのリノベーションにならないような工夫につながっているのでしょうか?

そうですね。「この場所は自分たちのためにつくった場所ではない」というのが大きいです。言い方を変えれば、不完全な状態でオープンしています。様々な事業者に使用していただくことで血が回り動き出す、そんな場所だと考えています。
例えば、ここに出店したり、ここに商品を卸すことで、その方のお客さんが増えたり、商品や作家のファンが増えます。ここのお店を目当てに来たけれど、隣のお店も覗いたり。こうしたマルシェ形式にすることで、お客様にも楽しんでもらえますし、出店者目線でいえば、ここに出店することで新しいお客さんに来てもらえたり、出店者同士での新しいつながりも生まれます。1回来ると3人知り合いが増える、2回来ると10人に増える、というように広がっていくイメージ。だからあえて全部を融合させています。


毎月1日と2日(変更有)に行われる「イチと二市」

 


この街を変えるというような強がった意識は微塵もなく、「この場所は自分たちのためにつくった場所ではない」と、しなやかな余白をもち、目の前のことから一歩ずつ、まわりの人を自然と巻き込んでいく姿がとても魅力的だ。
後編では、デザイン事務所が運営するからこそできること、仙台のまちについて思うことを伺っていく。

 

 

後編

1TO2BLDG「この場所は自分たちのためにつくった場所ではない」〈後編〉

WRITTEN BY
pon
仙台生まれの大学生。ゼミで、まちづくりについて学んでいる。両親が使っていたフィルムカメラを譲り受け、撮影の練習中。まちを歩きながら、レトロな看板や面白い看板を見つけるとつい撮ってしまう。荒町の喫茶店「ぴーぷる」のナポリタンが大好き!
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