ワインは瓶に入ったお刺身?

「あなたの生まれ年のワインあります。」

ある日の事、何気なく帰り道に魚屋に目をやると入り口にこう書かれていた。

お魚屋さんがワイン?本当にこのお店にワインなんて置いているのだろうか。
あっけにとられて、張り紙に目を奪われていると、
中から出てきた男性に「ワインのお話聞いてみませんか?」と声をかけられた。

聞けば男性は創業70年、鮮魚の卸問屋「魚銀」さんの二代目社長増賀さん。
元々、卸を生業としていたが、ここ数年、仙台の老舗ホテルやレストランが閉店し、
魚以外にも、魚の保冷技術やノウハウを用いて何できないかと思ったのがきっかけだそう。

 

増賀さんは20代の頃、フランスに留学し、ホームステイや友人宅を転々としていた。
その時、私たちが白いご飯にたくあんや佃煮を合わせるように、
肉にはこのワイン、魚にはこのワインという風景がごく普通にあった。

フランス人は日常生活で「食」を大事にする。
ワインと食事は極めて食生活において重要な位置づけだ。
長いフランスの食文化において、チーズは350種類あるそうだ。
そのくらい「食事」というものがいかに生活の大半を占めるのかという食文化の深さを感じることができる。

日本では食事は質素倹約がいかに大切かを教えられ、食費を切り詰める方法を考える。
だがフランスは生活を質素にしても、その分食事やワインを楽しもうじゃないかという考えなのだそうだ。
そういった日本とは正反対な豊かな食文化を見てきた。

そんな中で、ワインを低温で保存する技術と、魚を冷蔵で保存する技術が非常に似ていることに気がついた。

鮮魚も、冷蔵庫から出してすぐに食べたのでは美味しくない。ワインも同じ。
低温保存したら、常温で少しおく。すぐに開栓して飲むのは旨みが出ない。

増賀さんは両親が魚を扱う姿を見て育った。美味しく食べるためのノウハウも身に着けている。
その行程は、ワインを美味しく飲む行程に、実はとてもよく似ていたのだ。

 

魚銀では、ワインのことを「活ワイン」と呼ぶ。鮮度が命。

何十年経っても保管の仕方と飲み方さえ間違わなければ、本当に美味しくいただける。
店内には数々のヴィンテージワインが並ぶ。

現代ではワインの製造技術も向上し、フィルタをかけているので、どのワインも安くておいしいというのは当たり前だそうだ。

例えば、見せていただいたワインは90年前のブルゴーニュワイン。
その時代は今のような製造技術はない。
フィルタにかけず、出来立てを清潔を保った瓶に詰め込む。
そうすることによって、ワイン本来の美味しさが凝縮されるのだ。
低温で熟成し、飲む日を逆算して開栓し、飲む前に常温に戻す。
飲むべき行程は本来こうだが、この行程を知らなかったり、
省いたりして本当に美味しい飲み方をしている人はなかなかいない。

また、日本では、ヴィンテージワインともなると、高額で購入する方は少なくなかなか流通しない。
ところがフランスでは、ヴィンテージワインを先祖代々骨董品のように大切に保管し、
子供の進学や結婚式など、生涯の中でかけがえのないイベントの時にだけ売却しお金に換えるのだそうだ。
それだけワインは宝物として扱われ、家庭の中の財産ともなる。

 

増賀さんの例えは、非常にわかりやすくお上手だ。
例えば、
・ワインや魚は子供と同じ、適切な対応してこそ子育てがうまくいく。
・ワインの栓を開ける、それは、陸上選手がウォーミングするようにワインにもウォーミングアップが必要だ、すぐ飲むわけにはいかない。
など。

「ワインは瓶に入ったお刺身」と表現するのは、なぜなのか。

「魚は適正な温度で管理しないと、腐敗が進んだり、鮮度が落ちたりするんですよ。
ワインも適正な温度管理をしないと、風味や酸味が変わります。
まるでお刺身と同じ。適切な扱いをしてこそ美味しくいただけます。」

ヴィンテージワインの匂いを嗅がせていただいた。
低温から常温に戻し、22°Cになっているという。
ふわっと広がる果実本来のまろやかな優しい香り。
私が今まで飲んだワインとは格別に匂いが違う。

「50年とか90年とか古いワインは値も張りますが、
若い方にはとりあえず10年前のワインを飲んでみてほしいんです。
そして、だんだんとワインを覚えていただきたい。」

 

増賀さんに、生涯忘れられないワインを伺った。
約40年前にフランス留学時に飲んだ、安いハウスワインだそうだ。
当時は、ワインを大量生産しておらず、出来立てを凝縮して、適切な温度で保存していた。
あの果実の豊潤な味わいが忘れられないと言う。

ワインを美味しく飲めるとっておきを教えてくださった。
ブルゴーニュワインには広口のブルゴーニュグラスを、ボルドーワインには細長いボルドーグラスに注いで飲むこと。
一般的に全てボルドーグラスで飲まれているため、酸味がきつくなってしまう場合が多いそう。
適切な温度、適切な飲み方、適切なグラス、これさえ守れば、ワインをもっと美味しく楽しめる。

 

ワインの話をしている時の増賀さんと、魚の話をする時の増賀さんの顔つきは同じだ。
ワインと刺身は一緒。
フランス人はそうは思わないかもしれなけれど、
鮮度命を生業としてきた日本の魚屋も大切にしている事は同じなんだ!

いつもはビール派だけど、ワインの風味を感じて、美味しく飲む方法を試してみよう、そう思った。

 

株式会社魚銀
宮城県仙台市青葉区中央4丁目8-21
https://www.uogin.com/

WRITTEN BY
りりっくれおなるど
栗原市産まれの仙台市民。写真やファッション、音楽、映画が大好き。靴コレクションは100足突破。栄養士として、学んだ知識と鍛えられた舌で仙台の美味しい物を探している。営業で培った人脈で、食べ物や音楽、アート、洋服などで、仙台を盛り上げる事が目標。いまは立ち飲み屋で吉田類と飲む事が夢です。
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